水筒の底に沈む砂
山道の途中で水筒の蓋を開けると、中の水が茶色く濁り、底に細かな砂が沈んでいます。喉は渇いているのに、口元まで運んだ水筒を、一口も飲まずに下ろします。汚い水の夢は、水は手の届く所にあるのに、飲むにも洗うにも使えないと分かった時の、当てが外れた手元を映します。
夢の中の水がどれだけ溜まっていても、飲むにも洗うにも回せなければ、手元には何も無いのと同じです。頼りにしてきた蓄えや人の助言、長く続けてきたやり方が、いざという時に役に立たないと分かる場面は、量は足りているのに口にできない水に似ています。夢の中でその水を飲もうとしていたのか、手を洗おうとしていたのかが分かれば、当てにしていたものの種類まで、場面から読み分けることができます。
濁った水のそばで起きること
- 汚い水を飲んでしまう - 喉が渇いて口に含んだ水が、飲み下した後で濁っていたと分かります。喉に残るざらつきは、中身を確かめる前に受け入れてしまった話や条件への悔いと重なることもあります。
- 汚い水に浸かる - 腰まで濁った水に浸かり、足が水の中で何を踏んでいるのか分からずに立っています。抜け出したいのに身動きの取れない事情の中へ、すでに体ごと入ってしまった時の、足元の定まらなさです。
- 汚い水の中を泳ぐ - 先の見えない濁った水の中を、顔を水から上げて懸命に泳ぎます。気の進まない環境の中でも前へ進むしかない状況が、水をかく腕の重さに表れた形です。
- 濁った川を見る / 渡る - 茶色く濁った川が勢いよく流れ、向こう側へ渡る橋がどこにも見当たりません。進みたい方向との間に、底の見えない事情が横たわっている場面です。
- 溜まって動かない水 - 道の窪みに溜まった水が、何日も前から同じ色で淀んでいます。使い道の無いまま時間だけが過ぎた蓄えが、動かない水面に重なります。
- 汚い水と泥 - 水の底に泥が厚く沈み、一歩踏み出すと濁りが足元から舞い上がります。底に沈んだ泥の厚みは、かき回すと余計にこじれる事柄の扱いにくさと地続きです。
- 排水口に流れていかない - 排水口へ流そうとした汚い水が、いつまでも下りていかずにその場に溜まっています。手放したいのに行き場の見つからない気持ちと、流れない水は結び付いています。
- 洗っても汚れが落ちない - 汚れた水で手や服を洗い続けても、濁りがかえって布に移っていきます。拭き取るための道具まで汚れている時の手詰まりを描いたのが、いつまでも色の抜けない布です。
- 蛇口から濁った水が出る - 蛇口をひねると茶色い水が流れ出し、しばらく出し続けても色が抜けません。いつも当てにしてきた供給が、使いたい時に限って使えないと分かった戸惑いが、止まない濁りに出ています。
- 家の中に汚い水が溜まる - 部屋の床に汚い水が薄く広がり、家具の脚が茶色く濡れています。毎日当たり前に使ってきた場所が、ひと晩で使えない場所に変わった朝の眺めです。
- 汚い水を掃除する / 汲み出す - バケツで汚い水を汲み出し、床を何度も拭いていきます。重い水を運ぶ腕の張りは、使えなくなったものを、自分の手で使える形へ戻そうとする動きと一続きです。
- 米の研ぎ水が澄まない - 米を研ぐ水を何度替えても濁りが消えず、炊く段にいつまでも進めません。下ごしらえの手前で足止めされる焦りが、替えても澄まない水に託されています。
溢れる水と濁る水
手元の水を使えるかどうかに目が向く点で、汚い水の夢は、水位や流れの勢いを見る水の夢と道が分かれます。澄んだ水に触れた体の応え方を読むきれいな水の夢と比べると、この夢で場面を分けるのは、その水で喉を潤せるか、手を洗えるかという使い道の方です。
洪水の夢やトイレがあふれる夢では、水が堤や便器の縁を越えて押し寄せ、その勢いが場面を動かします。汚い水の夢の水は、あふれも流れもせず、ただ飲むことにも洗うことにも回せない水として、そこにあります。
いざという時に使えない蓄え
汚い水とは、濁りや臭いのために飲むことにも洗うことにも使えなくなった水のことで、夢の中のその水は、当てにしてきたものが、いざ使おうとした時に役に立たないと分かる時期と結び付いています。長く頼りにしてきた相談相手に打ち明けてみると、返ってきた助言が昔の自分に向けたもののようで、いまの事情には当てはまらない週があります。
何年も前に身に付けた資格の知識が制度の改定で古い手順になり、更新の講習を控えて教本を一から開き直す年も、その一つです。旅先で開いた案内の冊子の地図が古く、目当ての店の前まで歩いてから、シャッターに貼られた閉店の知らせを読む日もあります。
蓄えを守ろうとする心の構え
資源保存理論とは、人が手元の資源を守り、新しい資源を得ようとする動機から、ストレスの起こり方を説明する考え方で、その資源には、物や健康から家族、自尊心まで、その人が大切にしているもの全般が入ります。この理論は、ストレスが生じる場合を、資源を失いそうな時、実際に失った時、費やした分に見合うものが戻らなかった時の三つに分けています。同じ量なら、資源を得る助けより失う痛手の方が大きく響くことも、この理論の柱の一つです。もっとも、この理論の研究が向き合ってきたのは、仕事や家族をめぐるストレスです。
ここでは資源保存理論を、汚い水の夢の入り口にします。水筒を開けて中の水が飲めないと分かる場面は、この理論でいう、すでに失われていた資源に気付く場面の形をしています。濁った水を布で漉してでも一杯分を取り出そうとする夢では、残った資源を守ろうとする動きが、水を扱う手つきとして描かれることもあります。
代わりの水を探す道
使えない水を前にした夢の中の動きは、別の水場を探しに行く、濁った水を漉して使おうとする、水を使わずに済ませる、の三通りに分かれます。別の水場を探して歩き出す夢は、当てにしていたものの代わりを自分から探し始めた段階と結び付き、どこまで歩いても濁った水にしか行き当たらない夢には、頼れる先がまだ見えていない心細さが映ります。
布を重ねて水を漉し、少しでも使える分を取り出そうとする夢では、役に立たなくなったものの中から、まだ使える部分を拾い出そうとする手つきが描かれます。水を使わずに済ませる夢は、当てにしていたものを手放しても暮らしを回す道が、手元に残っているしるしです。濁った水の全部を澄んだ水に戻さなくても、喉を潤す一杯分が取れれば足りる場面もあります。当てにしていたもののうち、飲むはずだった水は自分の内側へ取り込むもの、洗うはずだった水は外へ向けて身の回りを整えるものに当たります。
格子の上の小さな渦
夢の中のその濁った水を、何に使うつもりでいたでしょうか。使えない水の前で立ち止まる時間にも、代わりを探しに行く向きと、使わずに済ませる向きがあります。排水口の格子の上で、茶色い水が小さな渦を巻いたまま、下りていく道を探しています。