喪の色をまとった変化
黒い蝶の夢では、変わっていくことへの予感と、何かが終わっていくことへの寂しさが、一枚の翅の上に重ねて描かれます。卵から幼虫、さなぎを経て、もとの姿からは思いも寄らない形へ変わる蝶に、喪服を思わせる黒が加わると、夢の中の変化は軽やかな門出だけでは済まなくなります。この夢の黒い翅が運んでくるのは、始まりと引き換えに何かを置いていく変化の重さのほうです。
光を吸い込むような翅の黒さや、羽ばたくたびに縁にのぞく細い模様、音もなく近づいてくる飛び方が、この夢では細部まで目に残ります。仕事の区切りや住まいの移り変わり、長く続いた付き合いの終わりのように、良い変化だと頭では分かっていても胸のどこかが沈む出来事は、昼の間はなかなか言葉になりません。目の前を横切る黒い翅には、喜んでよいはずの変化と、まだ名前を付けていない喪失の気配が、同じ重さで乗っています。
黒い蝶の大きさと止まる場所
- 大きな黒い蝶 - 手のひらを広げたほどの黒い蝶が、目の高さをゆっくりと横切っていきます。翅の大きさは、目の前の変化が暮らしの中で占める広さと釣り合っていて、見上げるほどの翅は、手放すものの多さを見積もった広がりです。
- たくさんの黒い蝶が舞う - 庭や通りの上を、数え切れないほどの黒い蝶が、一つの雲のような群れになって舞っています。一つひとつは小さな区切りでも、同じ時期に重なれば空を暗くするほどの量になるという変化の積み重なりを、群れの濃さが一枚の景色にしたものです。
- 黒い蝶を捕まえる - 両手をそっと合わせて、黒い蝶を手の中に閉じ込めます。指のすき間で翅が動く感触に、終わりかけているものを、もう少しだけ手元に留めておきたい気持ちが乗っていることもあります。
- 黒い蝶が家に入ってくる - 開けておいた窓から黒い蝶が入り込み、居間の天井近くを、出口を探すように回り続けています。家の中は暮らしの土台に当たる場所で、外の出来事として眺めていた変化が、家族や住まいの事情にまで入り込んできた感覚と結び付く場面です。
- 黒い蝶が手に止まる - 差し出した指先に黒い蝶が降り、翅を閉じたり開いたりしています。逃げずに留まる蝶のかすかな重さに、遠くから眺めていた変化が手の届く距離まで来ている感覚が重なることもあります。
- 黒い蝶が死んでいる - 窓辺や道ばたに、翅を広げたまま動かない黒い蝶が落ちています。足元の動かない翅は、すでに終わった出来事を、見送りのために拾い上げられる大きさにした姿です。
- 黒と黄色の蝶 - 黄色の地に黒い筋の入った翅の蝶が、日の当たる花壇で花から花へと行き来しています。黄色の明るさが混ざる翅は、終わりと楽しみが入り混じった変化の形です。
- 黒い蝶と白い蝶が一緒に飛ぶ - 黒い蝶と白い蝶が、もつれ合うように一つの方向へ飛んでいきます。二色の翅が離れずに進む姿は、別れと出発を一つの出来事の表と裏として描いた絵です。
- 黒い蝶に追いかけられる - 手で何度振り払っても、黒い蝶が顔の周りにまとわりつき、目の前から離れません。払うたびに戻ってくる翅は、考えないようにしてきた区切りが、先延ばしにされながら期限だけを近づけている様子と重なります。
- 小さな黒い蝶 - 爪の先ほどの小さな黒い蝶が、机の上の明かりの周りを飛んでいます。小さな翅に託されているのは、人に話すほどではない身の回りの終わりで、使い慣れた道具の買い替えや、通わなくなった店との別れもその一つです。
翅に乗った喪の色
蝶の夢は、さなぎから羽化する蝶の姿を通して、自分が新しい形へ移っていく変化を、どちらかといえば前へ進む動きとして描きます。黒い蝶の夢でも変化は中心にありますが、黒い翅は、その変化の中で何を置いていくかという喪の手触りを足します。白い蝶や青い蝶が変化の明るい側を前に出すのに比べ、黒い蝶で先に目に入るのは、終わる側の重さです。
黒い夢は、黒い猫や黒い服、黒い水のように、黒が場面全体を染める夢で、自分でも認めたくない心の影の部分に目を向けます。黒い蝶の夢の黒は、場面を覆うより先に、動く一点に宿っていて、しかもその一点は、いずれ飛び去っていく生き物です。葬式の夢が終わりを儀式として正面から描くのに対し、黒い蝶の夢の終わりは、ひらひらと近づいては離れる軽さで現れ、まだ式を挙げる段階には来ていない別れを運んできます。
ごみ袋の手前で止まる手
長く使った机を手放すと決めた日、引き出しの奥から古い手帳が出てきて、ごみ袋へ入れかけた手が止まります。転職や引っ越し、子供の独り立ちのように、自分で選んだ変化や、喜んで迎えるはずの節目の途中には、こうした止まる瞬間がいくつも挟まります。黒い蝶の夢の背景にあるのは、その一瞬のためらいが、昼の間は言葉にならないまま積もっていく日々です。
周りから祝福の言葉をかけられる変化でも、その陰にある寂しさを口にする場所は見つけにくいものです。長く続けてきた役目を後任へ引き継いだ最終日、送別の花束を片腕に抱えたまま、もう一方の手で職場の扉を静かに閉めると、拍手の余韻の後ろに、誰にも見せない寂しさが小さく残ります。
どちらの岸にもいない時間
民俗学者のアルノルト・ファン・ヘネップは、1909 年の『通過儀礼』で、人が立場を移る時の儀礼を、元の立場から離れる分離、どちらにも属さない移行、新しい立場に組み込まれる統合の三つの段階に分けました。このうち真ん中の段階は、ラテン語で敷居を意味する語にちなんで、リミナリティと呼ばれます。
この三段階は儀礼を調べたもので夢には触れていませんが、その区切り方を借りて黒い蝶の夢を読むと、黒い翅が飛んでいるのは、分離は済んだのに統合はまだ来ていない、真ん中の時間です。古い役目はもう脱いだのに、新しい役目の服にはまだ袖を通していない宙に浮いた感覚に、さなぎの期間と喪の色が同時に重なります。
言い伝えの中の黒い翅
メキシコでは、夜に飛ぶ大きな黒っぽい蛾がマリポサ・デ・ラ・ムエルテ (死の蝶) と呼ばれ、病人のいる家にこの蛾が入ると、その人が亡くなるという民間の言い伝えがあります。同じ蛾はコロンビアではマリポサ・ネグラ (黒い蝶) の名で呼ばれ、カリブ海の地域にも、死の前触れとする言い伝えが伝わっています。どちらの呼び名にも蝶を指すマリポサの語が入っていますが、この生き物は蝶ではなく蛾です。
夢に黒い蝶が出てきた後で、こうした言い伝えを知って不安になることは珍しくありません。こうした言い伝えは、夜中にふいに現れる来訪者に意味を与えてきた土地の文化の一つで、夢の中の黒い蝶が誰かの死を予告するものではありません。夢の黒い翅が運んでくるものは、現実の誰かの寿命とは関わりがなく、自分の中で終わろうとしている何かのほうへ向いています。
日なたで見る黒い翅
黒い蝶の夢は、変化を拒む気持ちよりも、変化に付いてくる寂しさに目を留める一場面を差し出しています。夢の中で黒い翅を怖がって逃げたとしても、じっと見つめていたとしても、その翅の黒さは、手放すものの重さを正直に数えた結果です。古い手帳を袋に入れるか引き出しへ戻すかを決める前に、表紙をしばらく眺めている時間は、夢の中で黒い蝶が目の前を漂っていた時間と同じ速さで流れます。思い返すと、夢の中で真っ黒に見えた翅の縁には、細い青の筋が一本走っていました。